建設映像のアーカイブを語る 常務取締役 板橋 昌二

鹿島映画の誕生から60年、当社は日本の国土・インフラを支える様々なプロジェクトや変わりゆく都市の姿をカメラにおさめ、映像作品として世に送り出してきました。これらの映像の著作権は、当時の制作会社の後身である当社がアーカイブとして管理し続けており、その作品数は約9000件以上にも及びます。例えばその中には、青函トンネルや世界貿易センタービルなど、往年の貴重な工事記録映像が数多く含まれています。

フィルム時代の編集

スマホ1台でも動画が撮れる現代、ほとんどの映像がデジタル撮影で制作されていますが、1980年代以前は大がかりなフィルムカメラでの撮影が主流。当社でも多くの作品をフィルムで撮影してきました。当時のフィルムカメラと現在のデジタルカメラでは、「フィルム撮影=映像をフィルムに光学的に焼き付ける」と「デジタル撮影=映像をデジタルメディアに記録する」といったように記録方式がまったく異なります。

当時のフィルムの編集風景

撮影した映像を編集する際も、その作業方法は大きく違っていました。現在は、コンピュータ上の専用ソフトで動画ファイルをデジタル編集するのが当たり前ですが、フィルムの時代は編集用のポジフィルムを物理的に切ったり貼ったりしてつなげていくという、文字どおりアナログな方法で編集していました(撮影時のネガフィルムを、編集のためにポジフィルムにプリントする作業も必要)。カットの秒数を少し伸ばしたり別カットに差し替えたりするだけでも大変な手間で、現在では考えられないくらい効率が悪いのですが、当時のディレクターはこの作業の繰り返しで編集技術を磨いていったのです。

大切に保管する

国立映画アーカイブで所蔵されているフィルム素材

一方で、現在は撮影素材も完成品もデータ化され、場所をとることもなくハードディスクに保存できますが、フィルムの映像素材はとても繊細で乾燥や湿気に弱いため、保管・管理に大変気を遣います。そのため当社では、日本で唯一の国立映画専門機関でフィルムの収集・保存・復元等も行っている「国立映画アーカイブ」でフィルムを収蔵・管理してもらい、必要な際に取り出すという方法をとっています。

フィルム映像をよみがえらせる

そんな中、最近取り組んでいるのがフィルム映像の修復・復元です。近年、文化継承や教育などの目的で過去の映像を使用したい、というニーズが高まっています。しかし、映写機がほとんど使われなくなった今ではフィルムの映像をそのまま見ることは難しく、現在の一般的な視聴形態に合わせたデータへの変換作業(「テレシネ」と呼ばれる)が必要となります。

フィルムの補修・クリーニング

また、フィルムに残っているキズやゴミをデータ上から1コマずつ除去したり、当時の色をひとつひとつ再現したりするリマスター作業も行うため、長さにもよりますが1作品1ヶ月程度の期間をかけて、可能な限りオリジナルに近い状態で鑑賞できるようにしています。

語り継ぐ使命

このように、過去のフィルム映像の管理や復元には多くのコストとマンパワーを要します。しかし、60年の歴史を重ねながら、先輩方が命を削り、魂を込めてつくってきた貴重な作品を後世に伝えるのは、私たちに課せられた使命です。

テレシネ作業

時間はかかるかもしれませんが、今後も粛々とアーカイブ作業を進め、ものづくりに関わる建設業の魅力とそれを記録してきた私たちの想いを受け継いでいきたいと思います。